でも、修司はすぐに笑った。


今日1番満足そうな顔をして、バットのグリップを握った。


おれは、その一球に、残りの夏をかけた。


カン。


ど真ん中、直球を修司が弾き返した。


直前まで耳をつんざいていた打楽器の音も、歓声も、メガホンの少し間抜けな音も。


全ての音が止まった。


白球が、弧を描く。


炎天下の青空の下。


ランナーがベースを蹴る。


おれはマウンドの上で、冷静沈着にその飛球を追い掛け続けた。


伸びる、伸びる、打球。


目が痛いほどその打球は白く輝き、ドームのように大きく弧を描き、さらに伸びる。


南高校の真っ白なユニフォーム。


背番号8が、我を忘れて背走する姿が、そこにあった。


勇気。


勇気はその打球を追い越して止まり、空を仰いだ。


バックスタンドすれすれの位置から、勇気が全速力で前進してくる。


弧を描いたボールが、急降下してくる。


発光する白球の落下地点に、勇気が到着した。


横目に、縦縞ユニフォーム8が、セカンドベースを狙って激走する姿が飛び込んできた。


ボールはゆっくりゆっくりと落下し、そして、勇気のグローブにすうっと吸い込まれた。


ぐらりと風景が揺らいだ。


真夏の陽射しと、県立球場が崩壊してしまいそうなほどのどよめきと音響。


白球を握り潰すほど強く挟んで、勇気がグローブを高く高く突き上げた。


3塁ベース付近で崩れ落ちる、桜花の3番打者を。


2塁ベース手前で、呆けたように立ち尽くす修司を、夏の陽射しがシルエットにしていた。


「なっ……夏井せんぱ……」


もう、声にならない声を出して、勇気がおれに体当たりしてきた。


抱きとめたくても、できなかった。


おれはもうふらふらで、吹っ飛ばされた。