球をリリースした瞬間に、やばいと思った。


ストライクゾーンぎりぎりで、流れるように落ちるスライダー。


スライダーはおれの決め球で、球威が落ちたわけではなかった。


でも、スライダーなのに、高めに浮いてしまったのだ。


それくらい、自分では制御不能なほど、肩に抑えがきかなくなっていた。


ストライクゾーンを球1つ分外れた高めのスライダーを、修司のバットが振り切った。


超音波のような、研ぎ澄まされたその音が、空に吸い込まれる。


キィ……ン。


青空に接触しそうなほど高く上がった飛球は伸びて、レフト側のポールすれすれのファウルになった。


こっそり、ほうっと胸を撫で下ろす。

1塁側スタンド、3塁側スタンドからも、大歓声とどよめきが爆音になってわき上がる。


こいつ。


勝つ気なんだ。


負ける気がしてねえんだ。


ツーアウト、ツーストライク。


今、そこに、バッターボックスに立っているのは、桜花大附属の主砲。


不動の4番。


平野修司だ。


おれは、空を見上げた。


場内ゆ揺らす大歓声が、耳をつんざく。


夏色の青空に、入道雲がもこもことわき上がっていた。


ポールから視線を戻し、バッターボックスを見つめる。


修司が、バッターボックスから片足を外して、1回だけフルスイングした。


ぞくぞくした。


やっぱり、すげえスイングだ。


フルスイングするとき、修司はいい目をする。


冷静で生意気で、ふてぶてしくて。


でも、繊細な目だ。


4番の仕事をきっちり理解している目だ。


主砲の目をしている。


おれはそっと目を閉じた。


瞼の裏に、いつかの光景がよみがえる。


懐かしい。


瞼の裏に、白球と金属バット。


中学生の少年球児が、3人いた。