健吾がタイミング良くとってくれたタイムで、ナインがマウンドに集まってきた。


「4番だな。牽制してもいいんだぞ」


と岸野は言い、おれと健吾の顔を交互に見つめた。


ナインの息が上がっていた。


みんな、きついんだな。


「いや、牽制はしたくない」



珍しくおれが発言すると、みんなが驚いた顔をした。


「勝負しよう。大丈夫だ。まだ、投げれる」


ああ、と健吾がめちゃくちゃ楽しそうにミットを掲げた。


バン。


健吾のミットに、おれのグローブを叩きつける。


「よし、夏井がその気なら、ついてく。最高の夏にしようや」


岸野がおれの背番号1を、今までで1番強い力で叩いた。


遠藤、村上、イガ。


大輝、昌樹、それから、勇気。


全員がおれの背中をグローブで叩き、グラウンドに散って行く。


バッターボックスに立つ修司と目が合った時、何の前触れもなくひとつの感情が心を揺さぶった。


悔しい。


修司は強い瞳で、おれを威嚇するように見ていた。


知らないやつみたいだ。


でも、その目が逆におれの闘志に業火をつける。


健吾のサインは、スクリューボール。


でも、おれはそれを無視して、一球目から決め球のスライダーを投じた。


「ストライク!」


スライダーを見逃した修司が満足そうに頷いて、おれにバットを突き出してきた。


修司の唇が、はっきりと動いた。


健吾がハッとした様子で、修司を見上げていた。


響也、健吾。


スライダー。


スライダーで勝負してこい、と修司は言いたいんだとすぐに分かった。


ツーアウト、ワンストライク。


おれが頷くと健吾も頷いて、スライダーのサインを出した。


ボールを握り、健吾の青いミットに向かう。