毛穴という毛穴からこんこんと噴き出す汗をアンダーシャツの袖で拭いながら振り返ると、そこに居たのは佐東結衣だった。

翠の親友の1人だ。

結衣はあの3人の中で1番幼顔で、でも、1番化粧が濃い。

ただでさえ厚化粧なのに、昼休みの時よりもさらに濃くなっていた。

赤毛の髪の毛が太陽に照らされて、半透明な琥珀色に輝いていた。

この爽やかな河川敷には全く似合わない顔をして、結衣は微笑んだ。

今、明里とマック寄って来たとこ、と結衣は言い、続けた。

右手にマクドナルドのシェイクを持ちながら。

「あたしの家、この近くなの。何、あんた達こそ。何でこんなとこ汗だくで走ってんの?」

おお、暑苦しいったらないわ、そう言って右手に持っていたシェイクをうまそうにズルズルと音を立てて吸い上げ、結衣はあからさまにしかめっ面をした。

これだから、スポーツっ気の無い女は。

両肩をがっくり落として呆れてしまったおれよりも先に話したのは、健吾だった。

「あのなあ!野球部はグラウンドに居るだけじゃねえの。どんなスポーツも、基本は走る事なんだぞ」

「へえー。ま、どうでもいいや。あたしには関係無いし」

けらけらと笑い飛ばして、突然、何かを思い出したのか、結衣はあっと声を上げた。

「ねえ! 夏井」

「何だよ」

「翠から聞いたでしょ?」

「何を」

「何って……翠、グラウンドに行かなかった?」

来てないけど、と答えると、結衣は急に顔付きを代えておれの背後に回り込み、背中を両手で力任せにぐいぐい押してきた。

「馬鹿じゃないの! 早く戻れよ! 翠、行ってるかもしれないじゃん! さっき、大変だったんだから」

「何! 何で翠が? 大変とか……意味が分からん」

「いいから、早く戻れよ! 使えねえ野球部だなあ」

やっぱり、類は友を呼ぶのかもしれない。

翠も男勝りな言いぐさをする女だが、結衣も負けてはいない。

明里だってそうだ。

清楚なのは見た目だけで、あの3人は遠慮とか相手の気持ちとかに遠慮を使わない。

常に、真っ向勝負してくる。