背走してその打球に飛び付いたのは、縦縞の背番号8。


修司だった。


レフト寄りの左中間の奥で急下降した打球の下に飛び込んで、修司は執念のダイビングキャッチをした。


1塁ベースを回った健吾が、その様子を見て土の上に寝転んだ。


「くっそー!」


でも、すぐに立ち上がり、健吾は1塁コーチャーと一緒に声を張り上げた。


「回れ! 還って来い!」


その声に答えるように、村上が獣のような鋭い目で3塁ベースを回り、ホームベースを両足で踏んだ。


「げーっ! カットなしかよ!」


ベンチから身を乗り出して叫んだのは、勇気だった。


村上に続いて、あの冷静な判断をする岸野が、冷静ではなかった。


「ストーップ!」


両手を広げて、3塁コーチャーが必死に止めているのを、岸野はわざと無視しているように見えた。


修司の強肩から投じられた返球は、弓矢のようにホームへ返ってくる。


ホームベース手間でワンバウンドし、その返球はキャッチャーミットにおさまった。


向かって来る岸野を、縦縞の背番号2が、待ってましたと言わんばかりに待ち構えている。


「アウト!」


主審がジャッジすると、1塁ベンチがわいた。


タッチアウトになった岸野が、スライディングで滑り込んだまま動かない。


「立て! 岸野先輩」


次打者の勇気が、岸野を引っ張り起こした。


勇気の罵声が、ベンチにも鮮明に届いてきた。


「しっかりせえや! 1回アウトになったくらいで、落ちんな! まだ、負けてねっす!」


岸野の背筋が、しゃんと伸びた。


岸野は勇気とハイタッチして、ベンチに戻ってきた。


「岸野先輩、ナイスファイト!」


村上が岸野の背中を叩き、


「ナイスファイト」


とイガが岸野の背中を抱え、ベンチに迎え入れた。


誰も、岸野を責めるやつはいなかった。