ボール、ボール。


かろうじて、ストライク。


そのあと、桜花の2年生投手は、ワイルドピッチでダメ出しのボールを出した。


ツーストライク、スリーボール。


13回、裏。


一球の怖さが、牙を剥いた。


村上はボール球をきっちり見分け、フォアボールで出塁。


続く岸野も、フォアボールで出塁した。


ノーアウト、1、2塁。


いつだったか、監督が言っていた事が、ふと、頭をよぎった。


最大のチャンスをものにできないチームは、どんなに強くても、最後に涙を呑むことになる。


負ける。


ネクストバッターサークルから、バッターボックスに向かう4番健吾を、おれは叫び呼び止めた。


「健吾!」


びっくりした顔で、健吾が振り向いた。


「このチャンス逃したら、おれたち、負けるぞ」


健吾が右の口角を上げて、にやりと笑った。


こくりと頷き、健吾は一度きり大きくフルスイングして、バッターボックスに入った。


ふと、左横の気配を感じて見てみると、花菜が震えていた。


花菜は選手ではなく、マネージャーだ。


でも、こういう接戦になると、よくこういう症状が出る。


花菜も、おれたちと一心同体なのだ。


花菜は選手以上に、試合に集中する。


その時、カアン、とでかい音が場内を駆け巡った。


1塁スタンドから重低音のような音響が響いた。


今日、1番の当たりだった。


健吾の放った打球は、大空に吸い込まれるほど高く上がり、バックスタンドに向かってぐんぐん伸びた。


入る。


ホームランか。


おれは、息を呑んだ。


その時、1塁側スタンドから溜め息が漏れ、3塁側スタンドは歓喜にわいた。


修司だ。


打球は緩やかに方向を変え、レフト方向に切れていく。