肩が、痛い。


こんな状態のおれがマウンドに立ち続けたら、いずれにしろまたメッタ打ちされるのは時間の問題だ。


リリーフ投手に託す方が、桜花に食らい付いていけるに違いない。


こんなおれじゃ、負けるかもしれない。


燃えたぎる肩をかばうように押さえながら、おれはこっそり唇を噛んだ。


やくたたず。


もっと、タフな肩が欲しい。


もう、ここまでか。


その時、健吾がミットでおれの頭をバシッと強くはたいた。


「あほんだらあ!」


その衝撃で帽子がずれて、マウンドに落ちた。


健吾の瞳は、この夏空よりも澄んでいて、真っ直ぐおれを見ていた。


「まだやれる! 球はまだ走ってる。やれるよな?」


何も答えないおれを、健吾は豪快に笑い飛ばして、言った。


「響也でだめなら、しょうがねえよ! 響也で負けるなら、誰も文句言わねえよ」


な! 、と健吾が強い口調で押すと、ナインが笑顔で頷いた。


「夏井の肩しか頼れるもんがない。負けたって、しょうがねえよ。最後まで投げろ」


今、マウンドを下りたら後悔するぞ、そう言って、岸野がマウンドから帽子を拾い上げ、おれの頭にかぶせた。


夏には、人それぞれのドラマがある。


例えば、こいつら。


仲間ってのは、不思議なものだ。


その笑顔で、その一言で。


まだやれるかもしれない、と奮い立たせられる。


まだいける、と自覚させてくれる。


「1点までならくれてやろうぜ。1点くらい、おれたちが返してやる」


岸野の言葉は1つ1つ、おれの心にすうっと染み込んで、ストンと落ちて行った。


「あきらめんな、夏井先輩」


勇気に背中を叩かれて、おれは素直に頷いていた。


頷いたおれを見た岸野が、満足そうな笑顔でナインに指示を出す。


「よし! 散れ!」


全員が清々しい朝焼けのような顔で、マウンドから散って行った。