ここで呆気なく引き下がるなんて、できない。


男には、男にしか分からない正念場ってのがある。


けど、翠なら、絶対に分かってくれる。


むしろ、はい、負けました、なんて会いに行ったら、もう口もきいてもらえないと思う。


試合放棄して来ました、とか、野球よりきみが大切だ、とか。


もってのほかだ。


6回、表。


おれは踏ん張った。


走者を出しながらも無得点に抑え、その回をしのいだ。


6回、裏。


味方打線が、健吾のヒットを軸に、同点となる3点を死に物狂いでもぎとってくれた。


桜花
042 010
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
000 043



試合は6回を終えて、振り出しに戻った。


ここからだ。


誰もが集中力を高め始めた、その直後だった。


桜花打線が、またもや反撃をしかけてきた。


いや、違う。


正確に言うと、おれのせいだった。


四球、死球、安打。


早くも7回表に、おれの左腕が捕まった。


翠の意識が回復した事を知って、安堵にひたっていたのは確かだ。


でも、だからと言って、それが理由ではない。


気が緩んだわけでもなかった。


今大会が始まって以来の、連日登板。


先発、完投。


肩の張り強くなり、精神的疲労が明らかに球威に現れ始めていた。


せっかく、味方の援護が振り出しに戻してくれたのに。


健吾が、遠くに見える。


体が重い。


不快な汗が吹き出す。


試合開始から、すでに2時間を越えようとしていた。


10時の陽射しは、昼間の暑さを最大限にし、灼熱と化して体力を奪う。


連日の完投の疲労が100倍になって、おれの左肩を襲い始めていた。


気付けば、ワンアウト、1、3塁。


ピンチを免れぬ状況を、おれ自信が作り上げてしまっていた。