だから、野球はおもしろい。
麻薬のように抜け出せなくなる。
「見てみろ」
と監督は冷静な面持ちで、マウンドを指差した。
「あの桜花が。冷静に見えていて、リズムが崩れかけているだろ」
その証拠に、あれほどズバ抜けた好投を魅せていた右腕エースが、初のフォアボールを出したのだ。
「ほら、見ろ」
ワンアウト、1塁にして、桜花は右腕エースをベンチに下げ、リリーフ投手をマウンドに送ってきた。
イガに続く2番、昌樹。
3番、岸野。
リリーフ投手の巧みな変化球に翻弄され、今までの反撃が夢だったかのように、あっけなくスリーアウトになった。
5回裏が終わって、グラウンド整備が行われた。
ダッグアウトの奥で、花菜が携帯電話を握り締めていた。
プロテクターを身につけた健吾が、おれの背中を叩いた。
「肩、大丈夫か?」
「ああ、うん。でも、少し温める」
5回裏の攻撃が思っていたよりも長引いたので、おれは肩をならすために、ベンチの脇で軽くキャッチボールをする事にした。
桜花
042 01
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
000 04
南
ボールを握る。
その固さを指先で噛み締める。
ゆっくり、大きく左肩を回して、健吾のミットに投げる。
グラウンド整備が終わりそうな時、ベンチから花菜が飛び出してきた。
キンキン声を、さらにキンキンキンキンさせて。
「響也! 響也!」
健吾から返ってきたボールをグローブでキャッチして、花菜に向かった。
「なに?……おっと」
おれの腕に飛び付いてきた花菜は、きらきらした可愛らしい目を潤ませていた。
アンダーシャツで額の汗をぐいっと拭い、帽子をかぶり直したおれに、花菜が興奮気味に言った。
「あのさ、えっと、あのね!」
花菜の小さな両手を腕からそっと離して、おれはクスクス笑った。
「なに興奮してんだよ。ベンチ戻れ。もう6回始まるよ」
「響也!」
麻薬のように抜け出せなくなる。
「見てみろ」
と監督は冷静な面持ちで、マウンドを指差した。
「あの桜花が。冷静に見えていて、リズムが崩れかけているだろ」
その証拠に、あれほどズバ抜けた好投を魅せていた右腕エースが、初のフォアボールを出したのだ。
「ほら、見ろ」
ワンアウト、1塁にして、桜花は右腕エースをベンチに下げ、リリーフ投手をマウンドに送ってきた。
イガに続く2番、昌樹。
3番、岸野。
リリーフ投手の巧みな変化球に翻弄され、今までの反撃が夢だったかのように、あっけなくスリーアウトになった。
5回裏が終わって、グラウンド整備が行われた。
ダッグアウトの奥で、花菜が携帯電話を握り締めていた。
プロテクターを身につけた健吾が、おれの背中を叩いた。
「肩、大丈夫か?」
「ああ、うん。でも、少し温める」
5回裏の攻撃が思っていたよりも長引いたので、おれは肩をならすために、ベンチの脇で軽くキャッチボールをする事にした。
桜花
042 01
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
000 04
南
ボールを握る。
その固さを指先で噛み締める。
ゆっくり、大きく左肩を回して、健吾のミットに投げる。
グラウンド整備が終わりそうな時、ベンチから花菜が飛び出してきた。
キンキン声を、さらにキンキンキンキンさせて。
「響也! 響也!」
健吾から返ってきたボールをグローブでキャッチして、花菜に向かった。
「なに?……おっと」
おれの腕に飛び付いてきた花菜は、きらきらした可愛らしい目を潤ませていた。
アンダーシャツで額の汗をぐいっと拭い、帽子をかぶり直したおれに、花菜が興奮気味に言った。
「あのさ、えっと、あのね!」
花菜の小さな両手を腕からそっと離して、おれはクスクス笑った。
「なに興奮してんだよ。ベンチ戻れ。もう6回始まるよ」
「響也!」