「いっ……ってえ」


ニタニタしながら、大輝は後頭部を押さえた。


「お前がケガでもしたら、レフトは誰が守るんだ。無茶はしなくていい!」


そう言って、監督はパコッと大輝の額をメガホンて軽く叩いた。


「でも、よくやった。結果オーライだな、大輝」


「うす」


大輝はへらへらして、わざと肩をすくめた。


ギャアギャア騒ぐみんなを見つめたあと、おれはバッターボックスに向かった。


3塁ベースを見る。


遠藤が右手でこぶしを作って、おれに突き出して笑った。


「おう!」


おれも同じように、左手でこぶしを作って遠藤に返す。


ノーアウト、3塁。


桜花のエースを見つめたふりをして、おれはその後ろを見つめていた。


修司。


中学3年の夏、おれと健吾とは別の道に進んだ修司。


修司は、甲子園に一番近いと言われている名門桜花を選んだ。


お前が選んだだけあって、桜花はズバ抜けてるよ。


修司。


でも、相澤先輩が言ってた。


同じ、高校生だって。


桜花も、南高も、同じだよ。


同じ、18歳だ。


南高だって、捨てたもんじゃないだろ。


修司、どうだ。


これが、南高だ。


おれが心底信頼している、最高のメンバーだ。


桜花のエースが、セットポジションに入った。


おれはバットのグリップをぎゅっと握り込んだ。


遠藤を、返す。


1球目を見逃して、ストライク。


その1球は右に切れるカーブで、でも、違和感を覚えた。


桜花のエースを見つめる。


こいつ、動揺してやがる。


表情は至って冷静に見えるのに。


桜花のエースでも、集中力が途切れるのか。