カン。


打球は高く上がり、歓声と同じ高さまで上昇し、伸びて伸びて、レフトの頭上を超えていく。


縦縞ユニフォーム、背番号7が、背番号8が、レフトスタンドに向かって背走する。


打球は弧を描き、レフトスタンドの高い壁にぶつかり、芝生の上に落ちた。


1塁コーチャーが大きく大きく腕を回す。


1塁ベースを蹴り、2塁ベースを回ったところで高々と右手を突き上げた勇気は、笑いながら2塁ベースに足をのせた。


南高校、初ヒットは、2年生の勇気が手にした。


レフトオーバー。


2塁打。


その一打から、南高校の反撃、いや、快進撃が始まった。


続く村上がライト側ラインギリギリのヒットで、出塁。


続く大輝が放った打球は、飛び付く二塁手のグローブすれすれを通過して、右中間を浅く抜けた。


ノーアウト、満塁。


1塁側ベンチ、応援スタンドが夏の入道雲のように熱く沸き上がっていた。


それでも、桜花は冷静だった。


7点差もあるのだから、焦ることもないのだろう。


今、3点許したとしても、点差は4もある。


8番打者、遠藤淕。


今大会、遠藤ははっきり言って不調だ。


なかなか、得意の長打がでなくて苦しんでいる。


しかし、その不調は嘘だったように、遠藤は勇気と同じレフトオーバーを放ち、ランナーを生還させた。


勇気がホームベースを駆け抜け、村上はスライディングして左手でベースをタッチ。


勇気と村上、2年生レギュラーがハイタッチして抱き合った。



これで、2点。


ところが、反撃はまだ終わっていなかった。


桜花のレフトから好速球が返って来る中、3塁コーチャーの指示を無視して、3塁ベースを蹴り、大輝がホームに向かってくる。


「バカ!」


おれは立ち上がり、グローブを叩いた。


「大輝! バカーッ!」


花菜も立ち上がり、両手をきつく握って祈るように大輝を見つめていた。


返球は獣のように俊敏に、レフトからショートへ、ショートからキャッチャーへ返ってくる。