腕を組んだ監督が、わざとらしく声を張り上げて笑った。


「これが、お前たちの野球か。つまらん野球だな」


全員が唇を噛み締め、悔しさに表情を歪める中、バットを片手に立ち上がったのは生意気な後輩、勇気だった。


「監督!」


「何だ、岩崎」


「この打席、おれの好きなように打ってもいいですか?」


ぎらぎらとした瞳で言う勇気に、監督は呆れた顔で頷いた。


「いいだろう」


「ありがとうございます」


そう言って、勇気はおれの前に立ちはだかり、ヘルメットをかぶった。


「夏井先輩」


「うん?」


「夏井先輩の援護してきます。第1号はおれですから」


ベンチを飛び出して行く勇気の背番号8を見つめながら、おれは左肩をそっと押さえた。


頼む、勇気。


桜花に向いている風を、こっちに引っ張って来い。


今まで無言だったベンチに、活気が戻ってきた。


「勇気! 1本!」


「死ぬ気で塁に出ろ!」


おれたちの声が届いているのか、いないのか。


勇気はしっかりと頷いて、バッターボックスに入った。


スコアブックに向かいながら、花菜が穏やかな笑顔でバッターボックスを見つめていた。


「なんか、成長したよね。勇気」


おれは声に出さず、頷いた。


桜花のエースがしなやかなフォームで、一球を投じた。


その一球はホームベース手前でがくりと急下降して、ボール2つ分上を、勇気のバットが空を切った。


空振り。


ワンストライク。