2番打者は、サードゴロ。


3番打者を三振に打ち取り、1回表、おれは意外なほど軽い足取りでマウンドを下りた。


いけるかもしれない。


あの桜花打線を、抑えることができた。


高揚する気持ち、汗ばむ背中。


いい、緊張感だ。


「響也」


健吾がミットで、おれの背中をポンと弾くように叩いた。


「悪くない。今日のお前、悪くない」


おれは返事もせず、ただ、頷き返した。


ところが、その裏、おれは投手と呼ばれるにふさわしい人間を目の当たりにして、固まった。


桜花のエース。


長身の肩幅が広い体から生み出されるそのフォームは、明らかにしなやかで、一切の無駄のないものだった。


圧倒されるとは、こういうことを言うのか。


縦縞のユニフォーム、長い腕から投じられる一球は、今まで闘ってきたどの高校のエースよりも、遥かに上をいっていた。


これが……名門、桜花のエース。


あの、無邪気なイガの表情が、異様なほど歪んで強張っていた。


イガは一球もスイングせずに、あっけなく三振。


悲痛な面持ちで、ベンチに戻ってきた。


「強ええ。これが桜花かよ。ちきしょう」


2番打者、3番打者、ともに三振。


南高校、1回の裏、三者凡退。


でも、誰1人として沈むやつはいない。


いや、むしろ、闘志に火がついたのだ。


2回の表。


桜花の打者は4番、修司。


アナウンスが流れる。


「4番、センター、平野くん」


アナウンスの声はバッグスタンドで跳ね返り、場内を駆け巡った。


わあっ、と歓声がわく。


桜花の応援スタンドが、一気に燃えたぎる。


健吾が、軽くミットを叩く。


サインを出す。


そして、構える。