3球目、ボールになるスライダー。


のはずが、打者が空振りして、ストライク。


4球目、直球、高め。


ファウルボール。


首筋に、ひんやりとした汗粒が伝った。


危ねえ。


打者の一打はレフト側のポールすれすれに切れて、ファウルボールになった。


一打の怖さは、計り知れない。


もし、あれがポールを切れていなかったらと考えると、ぞっとした。


こいつ、最初からでかいのを狙ってやがる。


もしくは、粘り勝ちをするつもりなのか。


いや、どんな形にせよ、塁に出ようとしているのは確実だ。


これが、桜花。


かなり甘く見ていたことに、はなはだ後悔した。


桜花と南高は今シーズン、一度も対戦していない。


だから、初回はおれの投球の様子を見てくるんじゃないかと思っていた。


でも、桜花は初っぱなから全力でバットを振ってきた。


真っ向勝負、か。


だから、ズバ抜けてんだ。


だから、常に強豪なんだな。


5球目……1つ分、外角に外した直球を、打者はフルスイングした。


カン。


打球は固くぱんぱんになったグラウンドをバウンドしながら、ショートに転がった。


レフト、大輝が岸野のカバーに回った。


岸野がゴロを華麗にさばき、ワンアウト。


ファーストの遠藤が、緩い弧を描いた返球をして言った。


「負けてねえよ! 1つ1つな! あせんなよ」


おれは頷き、セットポジションに入った。


バッターボックスには、すでに次打者が入っていた。