9時58分。


ベンチ入りメンバーがダッグアウトから飛び出し、ベンチ前に一列に並ぶ。


集合直前に、監督が一言だけ告げた。


「おまえたちの野球をしなさい」


誰もが、息を呑む。


この瞬間が、1番緊張感に包まれる。


「集合!」


主審の掛け声と共に、場内にサイレンが鳴り渡った。


応援スタンドに地響きのような歓声が起こり、激しく揺れる。


場内に、アナウンスが流れた。


「只今より、私立桜花大附属高等学校対、県立南高等学校の、準決勝を開始致します」


おれは、息を呑んだ。


「礼!」


主審の声に、両チームが頭を下げる。


「お願いします!」


泣くか、笑うか。


決戦の幕が上がった。



7月27日


1試合目


準決勝


先攻 私立桜花大附属高等学校


後攻 県立南高等学校


肌を焦がすほどの陽射しが、県立球場を灼熱の地と化した。


縦縞のユニフォーム、背番号6。


先頭打者が、バッターボックスの横で2、3回フルスイングした。


「おす」


そして、軽く会釈をして、バッターボックスに足を踏み入れる。


桜花は、右打者が多い。


健吾が出したサインは、右打者に対して、内角低め。


おれが苦手とする、インコース低め。


バックスタンドの方から、ホームベースに向かって緩い風が吹き抜けて行った。


「プレイ!」


主審の声とともに、場内がほんの一瞬だけ静寂に包まれる。


風が、止まった。


健吾が構える。


おれはセットポジションのフォームから、その青いミットに要求通りの一球を投じた。


第1球目、ストライクゾーンぎりぎりの低めに、おれの直球が決まる。


「ストライク!」


うん、と頷いて、健吾が素早く返球してくる。


これが、おれと健吾のリズムだ。


無駄な時間を使わない。


集中力を常に高く持つためだ。


2球目、カーブ。


ボール。