「桜花の、4番かあ……」


花菜が怖じ気付いた声で、つぶやく。


「平野くんの前に、ランナー出さないようにしないとね」


負けん気の強い敏腕マネージャーも、桜花にびびってるってわけか。


華奢な肩をすくめる花菜を、おれはグローブでポンと叩いた。


「あのね。おれと健吾を甘くみないでくれる?」


「うん!」


花菜が、ぱあっと笑顔になった。


今大会、大本命と騒がれている、桜花大附属。


チーム打率4割を越える超強力打線と、マックス140キロの右腕エース。


あらゆる変化球を武器とする、技巧派のリリーフ投手が2も控えている。


1つ年下の2年生には、多彩な球種のコントロール左腕。


期待の次期エース。


守らせれば県内トップクラスの、堅い守備力。


天才的な采配で、桜花を何度も甲子園に導いている、監督。


その桜花に対して、南高校。


右腕エース、翼は故障中。


1、2年のリリーフ陣は急激な成長を遂げているものの、まだまだ発展途上。


残されているのは、タフな事だけが唯一の取り柄、左腕エース。


打たせて、捕る。


守備力、打撃力、ともに桜花の方が実力はかなり上回っている。


でも、今大会が始まって以来、南高校には不思議なキャッチコピーがつけられるようになっていた。


1試合勝ち進むごとに、地元スポーツ新聞には、そう載せられるようになっていた。





南高 不気味な強さ

ノーシードからの快進撃

終盤の集中打撃

タフな左腕エースが意地を見せる








特に、5、6回。


中盤あたりから終盤にかけて、南高校の打撃は集中力を増していた。


1番打者、イガが塁に出ると、その後が続く。


長打が、連発する。


おれたちが桜花に勝てるとしたら、それしかない。