おれたちは仲間だから、言葉を交わさなくても分かる。


昨日までは、仲間だった。


でも、今日は敵でライバルだ。


そして、明日からはまた、仲間に戻る。


それを、おれたちは分かっている。












「お前たちに、今さらこうしろ、ああしろと言う気はない」


練習を終えてロッカールームに入るなり、監督が厳しい表情で話し始めた。


「ただ、ひとつだけ。強豪だから、甲子園常連校だから、実力が上だから。だから絶対勝てないなんて、思わないでもらいたい」


誰もが真剣な目で、監督を見つめる。


「確かに、実力は桜花が上だろう」


息を呑み、唇を噛む。


「お前たちには、桜花のようなブランドもなければ、華やかさもない。それでも、自分たちの力で甲子園をつかむ野球をしなさい」


それだけだ、フィールディングの準備をしていなさい、と監督は言い、ロッカールームを出ていった。


口を開く者は、一人もいなかった。


自分たちの力で甲子園を掴む、野球。


静寂したロッカールームで、おれはじっとその時を待った。


「みんな、フィールディングの時間だよ」


珍しく緊張した声で、花菜がロッカールームに入ってきた。


「行くぞ」


スポーツバッグを豪快に背負い、岸野が立ち上がった。


「おれたちの野球、やろうぜ」


ナインが各々のスポーツバッグを背負い、花菜の頭を1人1回ずつ叩いて、おれたちはロッカールームを飛び出した。


ダッグアウトに入り、スポーツバッグからグローブを取り出す。


グローブに白球を挟み、ダッグアウトから出て、驚かずにはいられなかった。


すげえ。