「うわ、散らかってんなあ」


ぐちゃぐちゃに敷き乱れた、布団。


花菜が洗濯してくれたユニフォームが、窓辺にからりと並んでいる。


花菜らしい、と思う。


右から順に、123456789。


背番号順だ。


あちこちに放置されたスポーツドリンクのペットボトル。


お菓子。


でも、部屋の片隅にきっちりと並んだ、スポーツバッグ。


東側の窓を全開に開け放って、夜風に触れながら、おれはしばらくの間立ち尽くしていた。


雨上がりの夜空はすっきりと澄んでいて、満天の星屑が散らばっていた。


黒い雲がはけて、月が出ている。


欠けた月が、やけに美しかった。


翠の瞳みたいに、美しかった。


その日の消灯直前に、健吾と勇気の携帯電話に同じ1件のメールが届いた。


おれは携帯電話を家に置いたまま飛び出してきたから、持っていなかったけれど。


でも、絶対、あいつの事だからおれにも同じメールを送ったのだろう。





DATE 7/26 20:58
From 平野修司
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明日はおれにとっての決勝戦だと思ってる

打倒 響也
打倒 健吾
打倒 勇気



お前ら倒して甲子園行くのは、俺だ!








そのメールを見て、おれたち3人はげらげらと笑った。


調子こいてんじゃねえよ、なんて声を揃えて。


けど、やっぱり好きなんだよなあ、あいつのこと、なんてしんみり笑った。


勝利と敗北。


一球の怖さは、凄まじい。


一打の怖さは、激しい。


悔しさ、惨めさ。



屈辱、無念、絶望。


1イニングごとにそれらが津波のように襲ってくる。


だから、野球はすごい。


だから、勝利を掴みたい。