花菜と一緒に振り向くと、監督が腕組みをして微かに微笑んでいた。


その横で、相澤先輩も笑っている。


「相澤と話して、少しは自信を取り戻せたか?」


「はい」


「そうか。良かったな」


監督は、おれの親でもないのに、おれの事をよく分かっている。


相澤先輩の一言一言が、おれの自信に繋がることを。


「夏井、マネージャー」


「「はい」」


「どうだ。あいつらは緊張感の欠片もないが、最高の仲間だろう」


てっきり、準決勝前夜にスイカの種飛ばし大会をやらかした事を突つかれる、と思っていたおれと花菜は、間抜けな顔で見合った。


そして、同時に小さく吹き出して、笑った。


「「はい! 最高です」」


声を揃えて言ったおれたちに、もう一度小さく笑って「明日、頑張ろうな」と監督は去ろうとした。


でも、すぐに立ち止まり、監督は続けた。


「そうだ、夏井。いい知らせだ」


「はい」


「吉田翠の母から、連絡があった。意識はまだ戻らないが、容態が安定したらしい。あとは、目を開けてくれるのを待つだけだそうだ」


良かったな、そう言って、今度は本当に行ってしまった。


「良かったね! 響也!」


キャッキャと嬉しそうにおれの肩を小突く花菜の後ろで、相澤先輩がクスクス笑っていた。


「本当に、素直じゃねえなあ」


「へ?」


すっとんきょうな声を漏らしたおれに、相澤先輩は笑いながら言った。


「違うんだよ。監督なんだ」


「え?」


と花菜もきょとんとしている。


「監督自ら電話したんだよ。翠ちゃんのお母さんに」


あれでも情にもろいとこがある人だから、そう言って、相澤先輩も監督の跡を追った。


「明日、応援に行くからな! 夏井、あきらめんなよ!」


「おす」


あきらめんなよ。


相澤先輩が言ってくれたその一言は、またおれの集中力を高めた。


がんばれよ。


そう言われるよりずっと、何億倍もやる気になった。