「史上最大の、敏腕マネージャーっすからね。最高っすね」


本当にそう思ったから、気持ちを言葉にした。


「相澤先輩も、種飛ばししませんか?」


行きましょう、と駆け出したおれを、相澤先輩が呼び止めた。


「夏井」


「はい?」


「行きたいか?」


相澤先輩の目を見て、ドキリとした。


その瞳はいつになく真剣で、勇ましい勇者のようで、おれは卍固めにあった。


この目を、おれはあの日にも見た。


2年前の、甲子園予選、決勝。


最終回。


ツーアウト、1、2塁。


カウントは、ワンストライクでスリーボール。


あの一瞬、相澤先輩は今と全く同じ目をして、マウンドに立っていた。


「兵庫に行って、甲子園のマウンドに立ちたいか?」


おれは、しっかりと頷いた。


「立ちたいっす」


持っていたスイカからは爽やかで瑞々しい香りが漂っていて、さっきまで降っていた霧雨もすっかり上がっていた。


雨上がりの夜空に、優しい月が見え始めている。


真夏の夜風がおれの頬をさらりと撫でた瞬間に、相澤先輩は自分の左手をぎゅっと握った。


「おれを超えろ。夏井」


即答はできなかった。


おれは、その場に立ち尽くした。


「おれを超えて、甲子園で一勝してみろ。どんなに辛くても、苦しくても、あの子を甲子園に連れて行けよ」


あの子。


相澤先輩が言った「あの子」は、すぐに見当がついた。


翠。


「おす!」


「よし、じゃあ、種飛ばしに行くか」


「はい」


おれと相澤先輩はハイタッチして、中庭を飛び出した。