真面目な岸野でさえ、ギラギラしている。


「よーし、じゃあ、玄関先に集合! 全員で一列になってやろうぜ」


「負ける気がしねえ!」


南高ナインは、根っから勝負好きが集まっている。


こんなイタズラのような勝負事でさえ、夢中になる。


「1位になったら、景品とかあるんすか?」


勇気もまた、勝負事に熱しやすく冷めにくい体質なのだ。


1人、2人、と次々に中庭を出て玄関先へ向かうナインを、相澤先輩は「緊張感の欠片もねえなあ」なんて笑い飛ばす。


「ほら! 響也も行こうぜ」


と健吾も飛び出して行った。


「ああ、いま行くよ」


一歩、足を踏み出した時、後ろから手を引かれて振り向いた。


「響也、待って」


花菜が笑っていた。


「いよいよだね。準決勝」


「おお」


おれが頷くと、花菜が何かを企んでいるような目をして、言った。


「負けたら、許さないから! 私、まだこのメンバーと一緒に野球がしたい。だから、甲子園に行こうぜ!」


「うん、おれも」


「私たちの夏、8月まで伸ばそう!」


相澤先輩が、花菜を微笑ましい目で見つめていた。


「先に行ってるからね」


それだけ言うと、花菜も中庭を飛び出して行った。


なんとも、おてんばなマネージャーだ。


負けん気が強くて、部員たちよりも負けず嫌いで、やたらと野球に詳しくて。


選手でも補欠でも、3年だろうが1年だろうが、隔たりなく対等に接してくれて。


いつも、部員の体調を気にかけてくれて、一生懸命で。


部誌やスコアブックも、少しの手抜きもなくきっちりと書いてあって。


男らしくて、さばさばしていて。


でも、情にもろくて泣き虫で。


だから、花菜はみんなに愛されるわけだ。


岸野が、惚れるわけだ。


監督が、頼るわけだ。


翠が、花菜になついたわけだ。


「なかなか、いい女だろ?」


クックッと笑いながら、相澤先輩は走り去る花菜を見つめていた。