ピッチャーほど、守られてのびのびプレーできるポジションはない。


そう言って、相澤先輩は笑った。


「夏井は、1人じゃねえよ。野球も1人じゃできねえ。こいつらが、常にお前の後ろにいる」


「はい」


ギャアギャア騒ぐみんなを見つめていると、さっきまでの不安が嘘のようにスッキリと晴れていった。


その時、大皿を両手で抱えた支配人が中庭に入ってきた。


「みなさん、これ、召し上がってください」


支配人は、丁寧に切り分けられたスイカを、おれたちに差し出してきた。


「そんな」


岸野が、申し訳なさそうに頭を下げた。


「悪いっすから」


「いいえ。これは、そちらの方からですよ」


支配人が指差した先には、相澤先輩が立っていた。


「こんな物で悪いな」


相澤先輩は、照れくさそうに笑った。


「慌てて帰って来たもんだから。急いで近くの八百屋で買ってきたんだ。差し入れ」


「お兄ちゃん、けっこう気がきくう」


ありがとうございます、と花菜は元気に言って、支配人から大皿を受け取った。


「いっただきまーす」


先陣を切ってスイカに手を伸ばした健吾を、花菜が肘で突き飛ばした。


「ちょっと! 1番は響也だよ」


「えっ、おれは最後でいいよ」


そう言っても、花菜はきかなかった。


「だめだめ! 響也には、明日も明後日も頑張ってもらわないと」


はい、と1番大きく切り分けられたスイカを、花菜がおれの顔の前に突き出した。


薄めた甘い匂いがした。


「ありがとう」


手にしたスイカはひんやりと冷えていて、心がすうっと浄化されていくようだった。


「なあ! 種飛ばし大会やろうぜ!」


突然の健吾の思い付きに、みんなの目がギラギラと光る。