「響也!」


キンキン声の花菜を筆頭に、健吾、岸野……ナインのみんなが裸足で中庭に飛び出してきた。


「あれーっ? 相澤先輩だ」


「よう、岩渕」


静かで風情のある中庭が、一気に騒がしくなった。


1番最初におれに声をかけてきたのは、勇気だった。


「もー、大騒ぎだったんすよ。夏井先輩がいなくて。探したんすから」


「おれ?」


「そっす! 館内捜索、大変だったんすよ」


「ごめん」


何だか申し訳なくて頭を掻いていると、イガが心配そうに顔を近付けてきた。


「どうしたんだよ。体調でも悪いのか?」


「はっ? 全然」


「そうか? 突然、何も言わないで居なくなるし。中々戻って来ないしさ」


「ごめん。ちょっと外の風に当たりたくて」


そっか、安心した、そう言ってイガはベビーフェイスをくしゃくしゃにして笑った。


村上が、おれの肩をポンと叩く。


「夏井先輩、みんなでトランプしましょうよ」


大揮がずいっと体を乗り出した。


「いやいや、おれがマッサージしてやるよ」


昌樹が、おれの腕を掴む。


「お前らなあ。夏井は疲れてんだよ。早く寝るに限る」


夏井、夏井、夏井。


なんでだ。


なんで、おれはこんなに恵まれているんだろうか。


気付けば、おれは、いつもこのメンバーに励まされてばかりいる。


全国には数え切れないほどの高校があって、野球部があって。


でも、その中でも、おれほど恵まれているピッチャーはいないんじゃないかって思う。


ギャアギャア騒いでいるナインたちをすり抜けて来て、相澤先輩はおれの耳にこっそり言った。


「苦しくなった時、振り向いてみろ。いつも、こいつらが後ろにいて、お前を守ってくれてるから。それは、忘れるな」