「明日、先発は夏井。桜花に勝ったら、決勝も夏井でいくって。監督が、お前に伝えとけってさ」


心臓が、ドクンとでかい音を立てる。


相澤先輩の目は直球過ぎて、目を反らす事ができなかった。


逃げる事もできなかった。


「監督が言ってたんだよ」


そう言って、相澤先輩はおれの左肩を叩いた。


「夏井しか考えてない。夏井と心中する。夏井で負けるなら、仕方ないって」


さすがに、これはメッタ打ちだった。


体が、目頭が、左肩が、沸騰したようにカッと熱くなった。


左手をぎゅっと握り締め、おれは唇を噛んだ。


泣いてしまいそうだったからだ。


「監督は、それくらい、夏井にかけてんだよ」


「相澤先輩」


「うん?」


「おれ……やれるっすかね?」


まだ熱が引けないぱんぱんに張っている左肩をさすりながら、おれは背中を丸めた。


相澤先輩が、豪快に笑い飛ばす。


「夏井なら、やれる。勝ちたいだろ?」


左肩に訊いてみる。


意外にも、左肩はすぐに返答してくれた。


まだ、やれる。


勝ちたい。


「勝ちたいっす。心底、勝ちたいっす」


顔を上げると、相澤先輩が背中をバシバシ叩いてきた。


「じゃあ、やれよ。闘え。そのポーカーフェイスで。けど、内心は闘争心むき出しにしてさ」


お前が立つ場所は、お前のポジションは、マウンドっていう場所は、そういう場所だ。


そう、相澤先輩は言った。


「どんな時も、常に冷静でいろ。平常心でいられるやつは、強い」


そう言って、相澤先輩は左手でこぶしを作り、おれに突き出した。


「おす!」


おれも左手でこぶしを作り、相澤先輩のこぶしにコツンと突き返した。


「仲間を信じろ。どんなに苦しくても、必ず、救ってくれるやつらばっかじゃねえか」


「はい」


「最後に、これだけは伝えたくてさ。伝えたくて、今日、帰って来たんだ。あのさ、夏井」


相澤先輩がそういいかけた時、回りがやけに騒がしくなった。