やっぱり、この人の手はすごい。


でかい。


「夏井が諦めない限り、勝率は25パーセント」


「え……」


「けど、ナインとマネージャー、部員と監督も諦めない限り、勝率は上がって50パーセント」


あとは運と、勝ちたいっていう気持ちの強さ。


勝ちたいっていう気持ちが強いチームが、最後に勝利を掴む。


それが、ベスト4だ。


相澤先輩はそう言った。


「確かに、桜花の方が実力は上かもしれない。でも、夏井のスライダーとスクリュー。ナインの打撃力。お前らなら、やれる」


そう言って、相澤先輩はおれの背中をバシバシ叩いた。


「夏井」


「はい」


「甲子園のマウンドに立て。世界観が変わるぞ」


そう言って、相澤先輩は椅子を立った。


見上げると、相澤先輩の背中がそこにあった。


「聞いたよ。翠ちゃんの事も、初戦前夜の事も」


「あ……花菜からですか?」


妹であり、おしゃべりな花菜の事だから話したのだろう。


でも、相澤先輩は首を振った。


「いや、違う。花菜じゃない」


「違うんすか。じゃあ、健吾か」


でも、相澤先輩は縦に首を振らなかった。


「岩渕でもねえよ」


相澤先輩が振り向いた。


相澤先輩の真っ直ぐな目と、目が合う。


やけに、緊張した。


「監督。さっき、顔出したときちらっと聞いた」


かなり、驚いた。


まさか、あの監督が、教え子にそんな事を漏らすなんて、予想外だった。


相澤先輩が肩をすくめて笑った。


「監督も歳なのかな。丸くなったなあ」


そう言って、相澤先輩はおれの前に立った。