そんな事になっていたなんて、相澤先輩がそんなふうにおれを見ていてくれていたなんて、これっぽっちも考えた事がなかったからだ。


「あの紅白戦の後、お前、毎日、走り込みしてたよな。練習のあと、たった1人で」


「え……バレてたんですか」


相澤先輩は片方の口角だけを上げて、クッと笑った。


「バカだな。みんな知ってたよ。やたらと負けず嫌いのポーカーフェイスが入部してきたなって、みんな注目してたんだから」


土砂降りだった雨は勢いを失い、霧雨になって中庭を潤していた。


相澤先輩が、おれの左肩に手を回してポンと叩いた。


「明日は、桜花か」


「はい」


「言っとくけど、桜花はズバ抜けてるぞ。今までの対戦相手みたいにはいかない。そう簡単には勝たせてくれない」


それは、分かっている。


桜花は、県内でもズバ抜けて強い。


今日の試合を見て、思い知らされたばかりだ。


「分かってます。だから……怖いんですよ」


「怖い、か」


「はい。負けるのが怖くて、しょうがないっす。おれの左腕が、どこまで通用するのか、不安です」


そう言って、おれはうつむいた。


「ここまで来て、負けるかもって考えたら、不安でたまらないっす」


「でも、勝つかもしれないだろ。桜花は強い。でも、絶対勝てない相手じゃない」


どんなに強くても、必ず、弱点がある。


穴がある。


同じ高校生なんだから、と相澤先輩はおれの左肩をきつく抱いた。