3年生の先輩たちにことごとくメッタ打ちされ、自分のリズムを完全に失ったおれは、8回で連続フォアボール、4連続デッドボールをやらかしてしまったのだ。


ピッチャーのプライドも野球への熱意も、ズタズタにされた。


「いやあ、できることなら、思い出したくなかったっすね」


苦笑いするおれに、相澤先輩は穏やかに話し続けた。



「そっか。けど、おれは一生忘れらんないな。きっと」


「忘れて下さいよ。汚点です」


「あの時、なんつー投手が南高に入部したんだろうって。すげえのが入部して来たぞって、嬉しかったから」


「連続フォアボール、連続デッドボールをするようなやつを、ですか?」


「その、無表情だよ」


そう言って、相澤先輩はおれの顔を指差した。


「連続フォアボール、連続デッドボール。メッタ打ち。それでも、夏井は無表情で投げ続けた」


それは簡単な事じゃない、そう言って、相澤先輩は真っ直ぐ前を見つめた。


「本物だと思った。こいつは、ピッチャーになるために生まれて来たんじゃねえかって」


どんなに嬉しくても、喜ばない。


どんなに苦しくても、態度に出さない。


どんなに泣きたくても、涙を見せない。


表情を変えずに、ただひたすらに投げ続ける。


それがピッチャーだ、と相澤先輩は楽しそうに話した。


「あの時の監督の顔、見せてやりたいな。あんな監督、初めて見たんだ」


「どんな、っすか?」


「すげえ楽しそうで、嬉しそうで、夏井の事ばっか見てた」


急に、泣きそうになった。