「いや、正直、お前らがベスト4入りするなんてさ。準決勝に駒進めたって、花菜からメールきて。こりゃ、東京満喫してる場合じゃねえなって」


気付いたら、飛行機ん中だった、そう言って、相澤先輩はおれの隣に座った。


元エースと肩を並べて座ると、やっぱり緊張する。


「で、調子はどうだ」


おれが返事をする前に、相澤先輩が先を続けた。


「不安か? 自信なくなったか?」


「え?」


まさしく、ど図星だった。


「ベスト4入りして、不安じゃないエースなんていないよ。おれも、ぶっ倒れせうなくらい、あの夏は不安とプレッシャーだった」


「相澤先輩が、っすか?」


おれが笑うと、相澤先輩はひとつ頷いて、黙り込んだ。


雨の優しい音だけが、辺りを包んでいた。


夜の中庭は、溜め息を漏らしてしまうほど風情だ。


しばらく無言だった相澤先輩が、ぽつりと漏らす。


その声は雨の音に掻き消されてしまいそうなほど、優しい声だった。


「おれは、夏井になってみたかったよ」


声が、出て来なかった。


だから、おれは相澤先輩の横顔をじっと見つめながら、その声に耳を傾けた。


「覚えてるかなあ。夏井が入部してきて、1ヶ月くらい経って。3年対1、2年の紅白戦した事あっただろ。覚えてる?」


忘れるはずがなかった。


あれは、屈辱の一戦だったからだ。


「はい。覚えてるっす」


あれは、おれが入部して1ヶ月後の、初夏の風が吹き抜ける日だった。


その紅白戦で、1、2年チームの先発は本間先輩。


7回から、おれがリリーフでマウンドに立った。


できることなら、思い出したくなかった。


あの時、おれは散々だった。