けど、その負けん気以上に、自信がない。


この左腕が、修司率いる桜花に通用するだろうか。


翠を、甲子園に連れて行けるだろうか。


あれほど恋焦がれていた勝利なのに、これほどまでに勝つ事が苦しいとは。


かなりの誤算だ。


勝ち進むたび、駒を進めるたびに、おれが背負っていたプレッシャーは莫大に拡大していた。


負けたくねえ。


是が非でも、勝ちてえ。


この土壇場にきて、おれには、もう1つ不安材料が増えていた。


連続登板。


アイシングをしても、左肩から熱が引いていかないのだ。


首筋から肩にかけて、鉄板がしかれたようにぱんぱんに張っている。


痛みは一切ないが、重くて、背中にかけて息苦しい。


こんな左肩で、修司にどう立ち向かうつもりなんだろうか。


こんなふうに迷い、落ち込みかけた時、今、ここに、翠が居てくれたらと思う。


そんな事くらいでうじうじすんな!


なんて、背中を思いっきり叩いて欲しい。


他の誰でもなく、きみに。


翠。


「翠……」


そう呟いた時、背後でカツンカツンと音がした。


振り向いて、おれは言葉を失った。


ガラス張りのすぐ目の前に、憧れてやまない相澤先輩が立っていた。


「相澤先輩!」


相澤先輩はにっこり微笑むと、横の狭い通路から中庭に入ってきた。


「よ、探した探した。こんなとこで、何たそがれてんだ?」


「それは、こっちが……」


訊きたい。


東京に居るはずの相澤先輩が、なぜ、ここに居るのか分からない。


突然の再会に戸惑い、ぽかんと口を開けていると、相澤先輩は爽やかに笑った。


「実はさ、いてもたってもいられなくて。夕方の飛行機で、帰って来たんだよ」


そう言って笑った相澤先輩は、春よりもまた少し大人びていて、爽やかさが倍増していた。


白いTシャツに、少し緩めのジーンズ。