ワンアウト、2塁。


北工業の打者が放った打球を、桜花の遊撃手がファーストに暴投。


ワンアウト、1、3塁。


桜花はリリーフの投手をマウンドへ送り、しかし、登板早々、適時打を浴びて同点に追い付かれた。


さらに桜花はフォアボールが続き、押し出しの1点を北工業に与えてしまった。


誰もが、北工業の初のベスト4入りを確信した。


しかし、その裏の攻撃。


北工業のエースが、この試合初めてのワイルドピッチとフォアボール。


堅い守りを見せていた内野手の暴投の連続。


桜花に、1点が追加された。


やはり、何が起きるか予想のつかない雨天の試合。


この土砂降りだから、なお。


同点にしたあとのワンアウト、2、3塁。


その打席に立ったのは、修司だった。


縦縞の泥だらけのユニフォーム。


でかい背中に、8。


凄まじい雨の中、修司は初球を打ち返した。


見ているこっちが、たまらず息を殺してしまうほど、強く打ち返した。


夏のグラウンドに、土砂降りの雨。


何が起こらないわけがなかった。


修司が放った渾身の一打は、強い打球でその威力を保ったまま、飛び付く遊撃手のグローブを欺くようにかわし、三遊間を抜けて行った。


3塁で大きくリードをとっていたランナーが、泥の中を瞬時に駆け出す。


2塁ランナーは3塁ベースを蹴り、打球を見届けたあと、その場でガッツポーズをしたまま、ひざまずいた。


修司は、どこまでも真っ直ぐな男だった。


最後の最後まで、太陽を目指して真っ直ぐ伸びる、大輪の向日葵のような男だ。


打球を、ショートに捕られてしまったと思ったのかもしれない。


とにかく、セーフになってやろうと夢中だったのだろうか。


三遊間を抜けた打球を一度も見届ける事なく、修司はファーストベースにベッドスライディングした。


修司の爽やかな出で立ちの顔が、威圧感たっぷりの縦縞のユニフォームが、泥まみれになっていた。