「うわあ、降ってきた」


応援スタンドに、色とりどりの傘が咲いていく。


レインコートを羽織る、各校の生徒たち。


傘代わりに、タオルを頭からかぶる者もいた。


試合開始序盤から、ぽつりぽつりと雨粒が落ちてきた。


初回に桜花が鮮やかに1点を先制して以降、8回まで、スコアボードには「0」が並ぶ投手戦となった。


しかも、ピリピリとした緊迫の投手戦だ。


投手戦となれば、桜花が有利だと誰もが思っていたのだ。


桜花には、同じレベルの投手が3人いて、2年生には期待の左腕が控えている。


北工業にはエースは1人。


たまらず、息を呑んでしまうほどだった。


終盤、雨は本格的に降り出し、いつしか本降りになっていた。


「きっついよなあ。この雨で延長戦になると」


隣に座っているイガが傘の中に身を縮こめながら、呟いた。


「こりゃ、どっちに転ぶか分かんなくなってきたな」


誰もが、そう思っていたはずだ。


北工業の執念と意地は、凄まじいものだった。


北工業のエースはこの雨だというのにも平然として、ワイルドピッチを一球も出さず、守備の堅さが凄まじい。


流れは、完全に、北工業に向いていた。


修司が、ここで蹴り落とされるかもしれない。


そう思わずにはいられないほどだった。


雨は激しさを増すばかりで、でも、誰1人として応援席を立ち去る者はいない。


みんなが、見たいのだ。


準決勝に、どちらがその駒を進めるのか。


北工業が、横綱桜花にどこまで食らい付いて行けるのか、を。


そして、9回裏。


ゲームは急展開した。