翠はまだ眠りから醒めない。


おれの大切なフランス人形は、いつになったら目を覚ますのだろう。


翠。


目が覚めたら、きみは驚くのだろう。


そのミステリアスで可愛らしい瞳を、くりくりさせて。


頑張れ、翠。










7月25日


限りなくパステルカラーに近い水色の空が、上空に広がっていた。


3回戦。


先攻 県立東原商業高等学校


後攻 県立南高等学校


今日の先発を知らされたのは、前夜、ミーティング直後の事だった。


「明日、いけるか?」


宿泊していた旅館の監督の部屋に呼ばれ、おれは迷わずに頷いていた。


「いけます」


でも、さすがに3試合連続の登板はきつかった。


それでも、おれは集中力の糸をと切らせるわけにはいかなかった。


苦しければ、苦しいほど、おれは無心夢中になって左腕を降り下ろし続けた。


東原商業
000 00
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
000 00




5回まで、両チーム無得点の投手戦となった。


試合が動いたのは、7回。


無死2塁から、遠藤のレフトオーバーで、南高が先制。


続く昌樹の適時打、健吾の左中間を抜く強打、勇気の犠打などで東原商業を突き放した。


今大会が幕を開けてから、おれは味方の打撃力に救われまくっていた。


夕刊に威風堂々と、そのタイトルが載った。





南高

7回 5点先制

前年度4強の東原商業を撃破



東原商業
000 000 010 1
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000 000 510 6




気付けば、おれたちはベスト8入りを果たしていた。


翠の意識は、まだ、戻らない。