はっきり言って、健吾はバカだ。


勉強はできない方だ。


でも、野球になると人が変わったように秀才になる。


天才的な判断ができる。


高校球児にしては、ひょろりとした長身の明成2番打者。


おれは、ボール球になるスライダーを投じた。


健吾の予想は見事に的中した。


打者はセーフティーバントをしてきた。


でも、ポケーンと間抜けな音を出して、ボールは小さなフライとなり、前進守備していたイガのグローブにおさまった。


普段、にこにこしていてベビーフェイスのイガの目が、鋭くつり上がった。


イガは体勢を整えながら、ファーストに送球した。


1塁審判の腕が上がる。


「アウト!」


飛び出していたランナーを、イガの強肩が刺した。


ゲッツー。


ダブルプレイ。


ファーストの遠藤から、ボールが返ってくる。


「夏井、どんどん打たせろ! おれらが死ぬ気で守ってやる」


遠藤の言葉は、本当にその通りになった。


おれが投じた甘い直球は浮き、明成3番打者のバットにすんなりと持っていかれた。


ツーアウトなのに、やってしまった。


絶対に、左中間を抜ける。


まるで、ジェット機のように宙を真っ直ぐに伸びる打球。


その時、ライトの昌樹がラインぎりぎりに守備していたのに、目を血走らせ、センター方向に小さく回り込んできた。


武者震いがした。


ナインのみんなが、息を呑む。


頼む、昌樹。


ライトのカバーに入った勇気が、叫んだ。


「昌樹先輩! 捕れ!」


砂ぼこりにまみれたグラウンドを飛ぶトビウオなんて、果たして居るものだろうか。


その打球にくらいつき、左中間をゴロゴロと転がったのは白球ではなく、昌樹の体だった。


砂ぼこりを巻き上げ、ゴロゴロと転がり、昌樹はグローブを高く突き上げた。