明成とは、一度も闘ったことがない。


正直、おれはかなり戸惑った。


「プレイ!」


迷ったあげく、おれは大きく振りかぶって、左腕を降り下ろした。


リリースして、右足で地を踏ん張った瞬間、おれの目には、面の隙間からちらりと健吾の白い歯が見えた。


その一球は空を水平に切り、健吾のミットに食い込む。


主審が、日に焼けた右腕を垂直に上げる。


「ストライク!」


そのごもった声を聞いた時、背筋がぐあっと熱くなった。


明成の背番号4は、おれの直球を見逃した。


「ナイスボール! いいぞー、響也」


サードを守備していたイガがにやりと笑って、グローブの中をバスバスと叩く。


ワンストライク。


第2球目。


健吾からの要求は、アウトハイ。


頷いて、投じる。


ボール。


ワンストライク、ワンボール。


立ち上がりは、ひどいものだった。


一球目はストライクをとったものの、その後は立て続けにボールを連発。


気付けば、カウントは、ワンストライクでスリーボールになっていた。


おれは焦っていた。


いつも通りに投げているのに、なんでストライクがとれないのか分からない。


「くそったれ」


無表情で、ぼやいた。


自分の左腕が憎たらしくて、はらわたが煮えくり返りそうだ。


ど真ん中も、アウトロウも、インハイも。


どこに投げても、ことごとくボール。


1回の表、先頭打者をフォアボールで1塁に見送るのは、さすがに堪えた。


ノーアウト、1塁。


「イガ!」


健吾が、3塁ベース付近で屈伸していたイガを指差した。


「前! もっと前! 前進守備!」


そして、健吾がおれに要求してきたのは、ボール球になるスライダーだった。