「父さん、ありがとう」


球場に登頂すると、もう各校の選手たちが大型バスから下りて、ぞろぞろと歩いていたり、軽くウォーミングアップをしていた。


「すいません」


「おす、おはようございます」


受付をしていたどこかの高校の下っぱ球児に、おれは駆け寄って行った。


「第1試合予定の県立南高校は、もう中ですか?」


すると、その球児はおれの背中を見つめて、ハッとした顔をした。


「はい!」


大きな声で返事をして、白い帽子を取り、礼儀正しく答えた。


「40分くらい前に、控え室になっているロッカールームへ入って行きました」


「ありがとう」


おれが球場の中へ入ろうとすると、その球児は慌てた声で引き止めてきた。


「あのっ、すいません」


「なに?」


「南高校さんは3塁側なんで、西口からどうぞ」


「ああ! ありがとう!」


言われた通りに西口に回り、中へ入ると長い通路が続いていた。


上下左右、灰色の壁でひんやりした。


長い通路を足早に進んで、ロッカールームの札が見えた時、おれは息を呑んで立ち止まった。


ロッカールームのドアにもたれて、うずくまっている女がいた。


南高校の夏の制服を着ていて、おれと同じ試合用の帽子を深くかぶっている。


うずくまって膝を抱えている右手で、何か紙を握り締めていた。


まさかとは思った。


「おい、花菜?」


おれの声に反応したのか、うずくまっていた女はビクッと体を硬直させ、恐る恐る頭を上げた。


やっぱり、マネージャーの花菜だった。


「え……響也?」


花菜は目を真っ赤にして、唇を震わせて、泣くのを必死に我慢しているように見えた。


「花菜」