7時15分。


その着信は、健吾の携帯からだった。


どうせ、来いよ、とか、待ってる、とか。


どうして来ないんだ、だとか。


そういう内容だろうとは、予想がついた。


でも、電話に出てみると、予想を覆された。


『夏井ーっ!』


その、複数の重なり合った、まるで合唱団のような騒がしい声に、おれはたまらず息を呑んだ。


『おまえのポーカーフェイスが、好きだー!』


語尾が少ししゃがれている声。


イガの声だ。


『夏井せんぱーい! おーい! 夏井せんぱーい!』


この人懐っこい声は、勇気だとすぐに分かった。


『響也あああー! ピィーッ』


キンキン声と、いつもより長命のホイッスルの音。


マネージャーの、花菜。


夏井、夏井、夏井。


夏井、夏井。


こんな短時間で、こんなにもたくさん名前を叫ばれたのは、生まれてこの方、初めてだった。


ギャアギャアと騒がしい声たちに耳を研ぎ澄ませていると、その中、健吾の声が耳に突き刺さった。


『響也! 体は大丈夫か? 少しでも寝たか?』


「え……ああ、うん」


『そうかあ! おれたち、今、県立球場に着いたんだ。これから控え室でオーダー発表と、グラウンドで公式練習するとこ』


「そっか」


おれが返事をした時、かせよ、と岸野の怒鳴り声と共に、後ろの騒ぎ声がピタリと止んだ。


『夏井』


部の中でも大人びた、しっかりとした決意に満ちた岸野の声が、おれの胸を熱くした。


『これが、最後だ。おれたちは、夏井響也が必要だ』


携帯電話を耳に押し付け、唇をきゅっと噛み締め、おれは左手をぎゅっと握った。


「ごめん。おれ、まだ家にいて」


『だから何だ。まだ、7時過ぎたばっかだ』


間に合うだろ、と岸野は言った。


「でも、行けねえよ」