「ちょっと! 何でB型なのよ!」

翠はそう叫んで、いきなりおれの肩に掴みかかり体をぐらぐら揺すってきた。

これまた豪快に、目が回ってしまうほどの力で、前後左右に。

心臓と胃と肝臓の位置がまぜこぜになりそうだ。

「知るかっ!」

「もう最悪! あたしはB型の男とうまが合わないの」

あたしはA型だもん、と翠は言った。

しん、と静まり返る空間で、おれは椅子にもたれ深く沈んだまま頭を抱えた。

ああ、もうめちゃくちゃだ。

何で数学の授業中に血液型の事で、こんなことになっているんだろうか。

おれが頭を抱えて悶絶している様を見て、結衣と明里は大ウケしていた。

同時に、健吾も。

大きな手をバシバシ叩いて、げらげらと笑っている。

「静かにしなさい! 吉田、座りなさい」

まったくお前達は、そう言って、数学担任は呆れた溜息を吐いた。

お前達、とは、勿論、おれも含まれている。

「このクラスには問題児が2人も居るな」

数学担任のしわしわのこめかみには、怒りの青筋がくっきりと浮き上がっていた。

何でおれまで怒られなきゃいけないんだ。

翠のせいなのに。

なのに、結局はいつだってこうだ。

事あるごとに、全ておれが悪い羽目になる。

損をするのは、大概男だ。

「補欠ー」

語尾を下げて言い、翠は続けた。

「あんたのせいで怒られちゃったじゃんかあ。ついてないわあ」

「何でおれなんだよ! 元はと言えばお前が悪いだろ。つうか、補欠、補欠って連発するなよ。おれにはちゃんと名前がある」

「じゃあ、いつになったらエースになるのよ、補欠エース」

「何だと?」

「何よ、やる気?」

おれを奮い起たせるのが、翠は得意だ。

いい意味、でも。

悪い意味、でも。

ガタリ、と音を立てておれが立ち上がると、負けじと翠も豪快に立ち上がった。

今は授業中だ。

そんな一般常識を完全に忘れ、おれと翠は睨み合った。

濃ゆくミステリアスな団栗眼をギリリと釣り上げて、翠が一歩前に出る。

その目は奥深く、あまりにも真っ直ぐで負けそうになる。