ロビーの長椅子に向かい合うように、おれたちは座った。
暗い空間で沈黙を破り、先に話を切り出したのは監督だった。
「夏井。お前は、自分の立場を分かってるか?」
「はい。分かってます。みんなに迷惑をかけている事も、最低な事をしているのも、自分がエースを捨てようとしている事も」
「分かってるなら、試合に出ろ、投げろ」
健吾と岸野は、悲痛な面持ちで無言のまま頷いた。
でも、おれは頷く事ができなかった。
自動販売機の、ブーン、というモーターの回るような音が虚しく響いていた。
「投げることができません」
おれの一言に、監督の目がつり上がった。
「なぜだ。彼女の事で頭がいっぱいか?」
監督の声は低くてドスが効いていて、それなのに、よく通る。
「もちろん、そうですよ。でも、それだけじゃないっす」
「と、言うと?」
おれは、溜め息をついた。
「もう、切れたんですよ。プツン、て。集中力の糸が切れたんです。投げれないっす」
そう告げて、ICUに戻ります、と椅子を立った。
監督はいつになく冷静な面持ちで、何も言って来なかった。
でも、突然、岸野がおれに掴みかかってきた。
「夏井! ふざけんなよ! エースだろ? なあ……責任持てよ」
「だから、投げれねえって。離せよ」
そう言って、おれは、胸ぐらを掴んでいる岸野を睨んだ。
「翼がいるじゃねえか」
岸野も負けじとおれを睨んだ。
「翼は、まだ怪我が治ってないだろ!」
「2年の横山も、1年の小笠原もいるじゃねえか。ピッチャーはおれだけじゃねえよ」
「本気でそんなこと言ってんのか?」
「ああ」
「夏井……おめえ」
岸野はギリギリと歯を食い縛って、おれの体を片手で突き飛ばした。
暗い空間で沈黙を破り、先に話を切り出したのは監督だった。
「夏井。お前は、自分の立場を分かってるか?」
「はい。分かってます。みんなに迷惑をかけている事も、最低な事をしているのも、自分がエースを捨てようとしている事も」
「分かってるなら、試合に出ろ、投げろ」
健吾と岸野は、悲痛な面持ちで無言のまま頷いた。
でも、おれは頷く事ができなかった。
自動販売機の、ブーン、というモーターの回るような音が虚しく響いていた。
「投げることができません」
おれの一言に、監督の目がつり上がった。
「なぜだ。彼女の事で頭がいっぱいか?」
監督の声は低くてドスが効いていて、それなのに、よく通る。
「もちろん、そうですよ。でも、それだけじゃないっす」
「と、言うと?」
おれは、溜め息をついた。
「もう、切れたんですよ。プツン、て。集中力の糸が切れたんです。投げれないっす」
そう告げて、ICUに戻ります、と椅子を立った。
監督はいつになく冷静な面持ちで、何も言って来なかった。
でも、突然、岸野がおれに掴みかかってきた。
「夏井! ふざけんなよ! エースだろ? なあ……責任持てよ」
「だから、投げれねえって。離せよ」
そう言って、おれは、胸ぐらを掴んでいる岸野を睨んだ。
「翼がいるじゃねえか」
岸野も負けじとおれを睨んだ。
「翼は、まだ怪我が治ってないだろ!」
「2年の横山も、1年の小笠原もいるじゃねえか。ピッチャーはおれだけじゃねえよ」
「本気でそんなこと言ってんのか?」
「ああ」
「夏井……おめえ」
岸野はギリギリと歯を食い縛って、おれの体を片手で突き飛ばした。