重い鉄のドアを引くと、ギギギイーと鈍い音が廊下に響いた。


ポケットから携帯電話を取り出し開く。


暗い空間に、僅かな明かりが漏れた。


アドレス帳をスクロールし、おれは迷わずあいつに電話をかけた。


なぜだろうか。


こいつの声を聞くと、ホッとしている自分がいた。


『もりもりー! あっ、間違えた、もしもし! 響也?』


「うん。おれ」


『どうしたー? 緊張して眠れねえのか?』


相変わらずナイーブボーイだなあ、と健吾の笑い声が携帯電話から小さく漏れた。


「いや、違う。悪いんだけど、明日、行けなくなった」


おれが言うと、健吾はげらげらと笑った。


『つまらん! 小学生でも、もっとマシなイタ電するって』


「イタ電じゃねえよ」


『はあ?』


「翠がさ、危ねえ状態なんだわ。だから、後は頼むな」


『ちょっと待てよ、なに言ってんだよ』


急に、健吾の声が真面目になった。


『じゃあな。本当にごめん』


「響也! おい」


健吾を無視して携帯電話を切り、パタリと閉じた。


でも、また直ぐに開いて、今度はあの人に電話を掛けた。


プルルルル、と3コール聞いたあと、


『はい、伊澤です』


と電話に出たのは、南高校名物鬼監督の奥さんだった。


「夜分遅くにすいません。おれ、南高校野球部の、夏井って言います」


『まあ! こんばんは。えっと……確か、ピッチャーの子ね』


「ええ。それで、監督はまだ起きてますか?」


『ええ、ちょっと待ってね』


すいません、と言い、保留のメロディーを聞いて待っていると、ドスの効いた声が耳を突き抜けた。


『夏井か? どうしたんだ』