「翠の様子が見たいんだけど」


そう言うと、さえちゃんはおれの手を引いて病室を出た。


ICU室には入れなかった。


だから、ガラス張りの窓から翠の様子を伺った。


モニターに囲まれ、点滴を何本も射たれ、でも、翠はやっぱり美しかった。


「今にも、目、覚ましそうなのにな」


ICU室内は昼間のように明るくて、全身白衣の看護師さんや、数人の専門医師たちが歩き回ったり、処置に慌ただしい。


相当の時間を、おれはICU室の前にあった固いソファーで過ごした。


「響ちゃん」


さえちゃんが、缶のお茶を差し出してくれた時、時刻は23時を回っていた。


「喉渇いてるでしょ、飲んで」


「ごめん。ありがとう」


おれは、喉がからっからに渇いていたのだと思う。


350缶のお茶を、一気に飲み干した。


「響ちゃん、今日はもう帰って休んでよ。ね、私、送って行くからさ」


響ちゃんのお父さんとお母さん、心配してる。


今、電話で事情話してきたの、とさえちゃんは肩をすくめた。


「ね、帰ろう」


さえちゃんに腕を掴まれたけれど、おれは首を振った。


「翠が目あけるまで、ここにいる」


「なに言ってんの。翠、いつ意識が戻るか分かんないんだよ」


「それでもいいよ」


さえちゃんがおれを睨んだ。


「バカじゃないの? 明日、試合でしょうが!」


さえちゃんがおれを説得したい気持ちは、痛いほどよく伝わってくる。


でも、おれは半分聞いて、半分聞き流して、ソファーを立った。


「こんな状態で、試合なんかできるわけねえじゃん」


そう言って、おれは非常階段へ向かった。