「B」

「へっ? C?」

誰がC型だ。

思わずそう突っ込みを入れたくなるほどだった。

おれは両肩をがっくり落とし、背中を丸めた。

翠の耳は一体どういった造りになっているのだろうか。

疑ってしまう。

「ごめん、もう少しでっかい声で言ってよ、補欠」

「だから、B型」

「は?」

「だから、B型だって言ってるだろ!」

ガッターン、グァングァン。

その音は正面の黒板にぶつかり跳ね返され、教室中の壁に響き渡った。

やってしまった。

そう思った時にはもう、後の祭、というやつだった。

おれが苛立ちと心中して勢い任せに立ち上がった時の、椅子が倒れた音がしばらく木霊していた。

はっ、と我に返り廊下側に視線を游がせると、健吾が広い肩をカタカタ震わせ、笑っているのが見えた。

コホン、と年老いた咳払いを聞き、やってしまった、とおれは肩をすくませた。

「夏井、どうした? B型の夢でも見ていたのか」

平和で何よりだ、と数字担任が嫌味たっぷりに言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。

数学博士のような格好をした先生が、黒ぶち眼鏡をくいっと上げて、訝しげな面持ちでおれを睨み付けていた。

その強い視線から逃げるかのように目を反らして、おれはうつ向いた。

まずい。

非常にまずい。

「いや……すいません」

「まあ、野球部は練習がきついのは分かるがな。寝ていたら授業についてこれなくなるぞ」

「いや、寝てたわけじゃ……」

「まあいい、座りなさい」

「はい」

乱暴に転がった椅子を起こして、溜息を長く吐き出しながら、乱暴に座り直した。

何事も無かったかのように、授業が再開された。

ちくしょう。

こんなのは納得がいかない。

休み時間になったら、真っ先駆けで翠に文句を言ってやる。

翠のせいだ。

そんな事を悶々と考え込んでいると、今度は後ろの席の翠が椅子を倒し、豪快に立ち上がった。

グワングワングワン。

倒れた椅子の音が二重三重になって、地響きのように木霊した。

クラスメイト達の視線が一気に集中し、数学担任の先生も口をあんぐりさせて目を丸くしている。