おれはパイプ椅子にどっしりと座り、スポーツバッグを床に下ろした。


「さっき、練習終わったんだ。今日、開会式だけだったからさ」


おれが話をすると、翠はゆっくりと頷いて、ワンコイン式のテレビを指差した。


「テレビ観たいのか?」


そう言って、スポーツバッグから財布を取りだそうとした時、翠がおれの肩を叩いた。


顔を上げると、翠は本当に可愛い顔で笑った。


「かっ、こ、よか、た」


「かっこよかったって?」


「う、ん」


頷いて、翠はまたテレビを指差した。


「か、いかい、しき、みた」


地元テレビ局で放送された開会式を、観ていたのだろう。


「ほ、け、つ、が……いち、ばん、かっこよか、た」


「え! おれ、映ったの?」


「うつ、って、な、かた、け、ど」


と翠は言い、小さく微笑んだ。


「映ってないのにカッコよかったって、なんだよ」


そう言って頬に触れると、翠はキッとおれを睨んだ。


手術して数日しか経っていないっていうのに、本当に気の強い女だ。


「がんば、れ。ほ、け、つ」


頑張れ、もう一度言って、翠はおれのアンダーシャツを弱い力で掴んだ。


「うん。だから、楽しみにしとけ」


「う、ん」


翠の手を優しく握っていると、看護師の鈴木さんがやって来て、傷口の消毒を始めた。


消毒を終えた翠は、ベッドに横になり、少し休むことになった。


まだ、鎮痛剤やら化膿止めの薬が抜けていないらしく、やっぱりしんどいらしい。


すうすうと心地よさそうに寝息を立てて、フランス人形は穏やかに眠りに就いた。


「さえちゃん、おれ、今日はもう帰るよ」