「あ、勘違いすんなよ」


「へ?」


別に響也をかばったわけじゃないから、と健吾は言い、続けた。


「おれ、すっげえ走りたい気分だったんだよなあ!」


嘘ついてんじゃねえよ。


練習メニューの中でも、走り込みが1番嫌いなくせに。


「さんきゅ、健吾」


「あー? なーんも聞こえんなあ! 行こうぜ、響也」


「おし」


もう、夏本番だ。


ブルペンの横の向日葵が、夕暮れ間近の蝉時雨に揺れていた。


グラウンドを走り込み始めて13周目あたりに、勇気が打った白球が、おれと健吾の頭上を大きく越えて行った。


「おお! 勇気のやつ、絶好調だな」


と健吾は息を切らしながら笑った。


「夏井せんぱーい! 岩渕せんぱーい!」


その声に、おれと健吾は走りながら振り向いた。


ずっと向こうで、勇気がバットをぶんぶん振り回して、叫んだ。


「甲子園に行こうぜー!」


おれと健吾は手を高く突き上げ、同時に叫び返しながら走り続けた。


「「ったりめーだ!」」


行こうぜ、甲子園。


茜色の空と白球が重なった時、ボールが黄金色に発光しながら弧を描いていた。


君の夢、黄金に染まる、白い球、か。



翠。



おれは、この一球に、きみの笑顔をかけようと思う。