グラウンドのブルペン横を通過すると、もう練習は始まっていて、みんなキャッチボールをしていた。


広いグラウンドをいっぱいに使って。


「やべ、始まってる」


おれは、砂ぼこりと、汗と涙が染み込んだ部室に駆け込み、練習用のユニフォームに着替え、グラウンドに飛び込んだ。


「チャース! 遅くなりました! お願いします!」


黒い野球帽を取り、バックネット裏から入って行くと、きつい陽射しを背に鬼監督から激を飛ばされた。


「夏井ー! やる気あるのか!」


「おす!」


「グラウンド20周! スクワット100の3セット」


クソッ、と舌打ちをして、でも、おれは素直に受け入れる。


「監督! おれもやるっす!」


キャッチボールをしていたはずの健吾が、おれのところに駆けてきた。


「岩渕。お前はいいから、キャッチボールしてろ」


監督がそう言っても、この鋭い目付きをしている時の健吾には通用しない。


「そういうわけにはいかないっす」


と健吾は突っぱねて、監督に反抗した。


「おれは、響也と夫婦みたいなもんなんで」


「何?」


監督の目がつり上がり、眉間にしわが寄る。


それでも健吾はあっけらかんとして、しれっとした口調を続けた。


「バッテリーは夫婦みたいなもんだって、監督、言ってたじゃないっすか」


監督は仏頂面でおれと健吾を睨み付け、フンッと背を向けた。


勝手にしろ、グラウンド30周に変更だ、そう言って。


「はいはいはい。そこの熱い友情は、部活に注ぎ込んでちょうだいな」


そこに居た花菜がピイッとホイッスルを短命に吹いて、クスクス笑った。


スパイクからランニングシューズに履き替えている健吾に、声をかけた。


「健吾……お前」