午後の生温い空気が重くのしかかった教室。
とろとろとした淡い微睡みの中で、その振動を感じその声を聞き、おれは現実へと一気に引き戻された。
ガスッガスッ、と不快感に溢れた振動が、おれの尾てい骨に伝わって来る。
眠りかけていた体は、正直な態度を示す。
「ちょいちょい、補欠くーん」
細々とした声で言い、おれの椅子の脚を一定のリズムで蹴っ飛ばしてきた。
いつもの事なので、いちいち相手にしてられるか、と言わんばかりにおれは無視をする事にした。
それでも翠はは諦める事を知らないようで、ますますしつこくなった。
「おーい、補欠! こら、補欠」
どこまでも無視し続けよう。
そう思っていたけれど、翠の根気強さに痺れを切らし、おれは渋々後ろを振り返った。
「何だよ、授業中に話し掛けるなよ」
そう言っておれが軽く睨んでいるのに、翠は満足そうににこにこ微笑んだ。
こんな事はしょっちゅうだ。
と言うより、毎時間、日常茶飯事のことなので、馴れている。
数学担任のやる気のない声だけが響いている教室の片隅で、翠はひそひそと話を持ち掛けてきた。
「ねえ、補欠って何型?」
授業中だというのに、緊張感の欠片もないマイペースな女である。
「ねえねえ、何型?」
「何が」
ひとつ溜息を落とし、おれは無意味に握っていた水色のシャープペンシルを、白紙のキャンパスノートの上に静かに放り出した。
シャープペンシルは2度だけ転がり、ノートの真ん中で急停止した。
「補欠の血液型訊いてんの」
今は数学の授業中だというのに、数字ではなく公式でもなくアルファベットを訊いてくるとは。
おれは正面を向いたまま椅子の背もたれを少しばかり後ろに倒し、その角度を保ちながら背後の翠にだけ聞こえる低い声で答えた。
教壇に立っている白髪混じりのベテラン数字教師の目を盗み盗み。
「……B型」
とぼそりと言うと、今度はおれのワイシャツの首元をぐいっと引っ張り、聞こえないんだけど、と翠は気を揉む始末だ。
「だから、B。B型だって」
「は? AB?」