我慢して、我慢して、ひたすらにおれを応援してくれていたのだ。


「もし、予選敗退に終わったらだけど」


おれは、痩せた翠の手をきつく握り締めた。


「いいよ。その時は、残りの夏、翠に全部やるよ」


秋も、冬も、春も。


これから先、全部、翠にやるよ。


「うん」


今まで、翠のわがままやお願いにはさんざん困ってきたし、付き合ってきたけど、ここまで素直に受け入れたお願いは初めてだった。


おれの残りの夏を全部くれてやったって、足りないくらいだろうけど。


「約束する。翠に全部くれてやる」


そう言って、おれはフランス人形の額に、そっと口づけた。


「あたし、補欠のこと、ほんとに好き」


ぽつりと呟いて、翠は、恥ずかしそうにくすくすと笑った。


おれだって、好きだ。


翠が、好きだ。


ほんとに、大好きだ。


明日は、翠の手術だ。


どうか、うまくいきますように、と夏の星座に頭を下げた。


帰り道、歩道の隅にサマージャンボ宝くじの券がくしゃくしゃに丸めて捨てられていた。


拾うような事はしなかったけれど、勿体ねえな、とおれは残念に思った。


宝くじの券は、外れなのかもしれない。


でも、こんな外れくじのような補欠にも、太陽のような彼女がいるように、この宝くじの券だってもしかしたら幸運を持っているかもしれないのだから。


満天の星空の下で、おれは、翠の笑顔ばかり考えていた。