「うおっ、なんだよ」


「補欠……腹減ったあ! あたしに惚れてんなら、食料調達してきな」


「バカ。明日、手術だろ。絶食って言われてるくせに」


「ケチ! ハゲ! ツルッパゲ!」


「球児にそんなこと言うかな」


ちえっ、と幼稚な舌打ちをして、翠は不ふて腐れてしまった。


ただでさえ、やせっぽちのくせに。


更に痩けて、頬骨がくっきりとして、たまにぼんやりと窓の外ばかりを見ては、深い溜め息をつくようになった、翠。


パイプベッドの横の棚の上には、いつも、花瓶に花が生けられている。


1週間の間に、種類がころころ変わる。


翠がこの病院に移動して来てから、どれくらいの種類の花々を見てきただろう。


春はチューリップだったり、ピンク色の薔薇だったり。


最近は、ミニ向日葵だったり。


花を持って来てくれるのは、翠の親友の結衣と明里だ。


週に2、3日は翠に会いに来てくれているらしく、2人が来た日はすぐに分かる。


花の種類が変わっているし、翠の機嫌が最高にいい。


しばらく今日1日の事を報告し合い、消灯時間が間近になったので帰ろうとしたおれを、珍しく翠は引き止めた。


「待って、補欠」


「んー? 食料なら、調達できないぞ」


とおれがおちょくってやると、翠は頬をぷくっと膨らませて、でも、すぐに笑った。


「違わい」


そう言って、翠は、おれのワイシャツの裾をきゅっと握った。


「行かないで」