「シャキッとせんか! また翠にぶっ殺されるぞ」


「ああ、悪い」


「ったくよお! 世話がやけるぜ」


「健吾はおれの事、何でもお見通しなんだな」


と病院に駆け込みながら力なく笑うと、健吾がおれの腕を掴み、総合受付の真ん前で立ち止まった。


「まて、響也」


「なに?」


患者さんも看護師さんたちも、研修中の学生たちも。


場違いもいいところだ、と言いたげに、びしょ濡れのおれたちをいぶかしげに見てきた。


その視線を気にもせず、健吾はでかい声を出した。


「阿呆! 今ごろ気付いたのかよ、ボケ」


「は?」


健吾は微笑んで、おれの左肩を何度か叩き、また笑った。


「響也のへなちょこボール。何球うけたか、もう分かんねえよ」


お見通しなんだよ、そう言って、健吾が後に続けた言葉は、やっぱりおれたちの絆をそのまま映し出していた。


「おれだぞ!」


「なにが?」


「9年も、お前の球を受け続けてきたのは、このおれだ」


胸と、目の奥がぐっと熱くなった。


やっぱり、こいつしか居ないと思った。


おれが1番信用して投げ続けて来れたのは、どんな時も全力でおれに向かってきてくれる、健吾だからだ。


「なあ、響也」


「うん」


「翠を、甲子園に連れてってやろうぜ」