「冗談きついって」


健吾の表情が、凍てつく。


「冗談なんかじゃねえよ。もしかしたら……再発かもしれねえ」


突然、健吾が目の色を変え、おれの体を引きずるようにグラウンドを飛び出して、アスファルトに叩き付けた。


「痛って」


上空は晴れ間が出ていて微かに温かいのに、アスファルトはべしゃべしゃに濡れていて、固くて冷たかった。


おれのグローブと健吾のミットが、アスファルトに散乱していた。


「てめえ! しっかりしろや!」


健吾は罵声を上げ、おれの胸ぐらを掴んだ。


普段、あっけらかんとして笑ってばかりいるやつがこうなると、引いてしまうくらい迫力がある。


健吾の肩越しに、水滴だらけの校舎が建っていた。


「翠がそんな時に、何でお前はこんなとこに居るんだよ!」


おれはカッとなって、健吾を睨んだ。


「知るか! もう訳わかんねえよ!」


だって、卵とケーキを買いに行くおれを、翠は笑顔で見送ったくせに。


帰ったら、もう居なかった。


「くそったれが!」


健吾はおれの胸元を突き飛ばし、アスファルトに散乱したグローブとミットを自転車のカゴに放り込んだ。


「乗れ!」


自転車に飛び乗った健吾が、おれを引きずり起こして睨み付ける。


何も言わず目を伏せているおれに痺れを切らしたのか、健吾は無理やりおれを自転車の後ろに座らせた。


「ぐずぐずしてんじゃねえぞ!」