おれが投げたウイニングボールは回転する事はなく、変化する事もなく、健吾の頭上を遥かに飛び越えぬかるみひはまった。


「バーカ! この一球で、甲子園行けねえんだぜ」


健吾はがっくりと膝を落とし、おれは呆然として雨に打たれ続けていた。


ぬかるみにはまったボールが、気の毒だった。


おれのスクリューボールはまだまだ未完成で、もうすぐ夏が来るっていうのに、夢も決意も全部を巻き込んでしおれてしまいそうだ。


八重桜はまだしおれそうもないのに、おれは惨めでしおれていた。


上空が明るくなった。


「お、にわか雨だ。響也! 晴れてきたぞ」


健吾に言われて見上げると、西の空から晴れ間がさしてきて、一気に雨が上がった。


「響也」


健吾が、気の抜けた声でおれを呼んだ。


「あ?」


「お前……何で泣いてんだよ」


おれは、絶句した。


「バッカだなあ、スクリューが決まらなかったからか?」


健吾に言われて初めて泣いていることに気付いたおれは、典型的な阿呆だ。


雨が上がって、ようやく気付いたのだった。


もしかしたら、おれは、もうずいぶんと前からこうして泣いていたのかもしれなかった。


「響也」


健吾は泥だらけの手で、おれの左肩を抱いた。


「お前、今日へんだぞ」


「え?」


「球が。へなちょこもいいとこだ。ハエが止まるぜ」


さすが、健吾だ。


毎日、おれの球を受けているだけの事はある。


ひとつ、長い間を置いて、おれは言った。


「翠が倒れた。病院に運ばれた」